

新思潮 No.147 2017年11月号より②
| 探しもの一つ日暮れのキーワード | 松井 文子 |
| 物忘れは老人に当たり前の現象であるが、この句はそんな日常次元の探し物では なかろう。もっと大切なものがあった筈、と云う己の人生から剥落した切片を探し ているのである。生活の多忙さから果たせなかった夢やなおざりにしてきた家族へ の愛・・・人生にとって本当はもっと重要なものがあった筈、と云う今更の気づき や後悔が、心の中でおろおろさ迷っている。黄昏ゆく心の中で、その切片だけがど うしても見つからぬ。〈古谷恭一〉 | |
| クリムトの接吻のごと夕焼ける | 新井 笑葉 |
| 現実と非日常の世界とを上手に融合したかのような作品。クリムトの接吻の絵か ら広がってきたような夕焼けなのだ。クリムトの接吻のイメージは美しいが、それ を広げた夕焼けも美しいにちがいない。独自の視点から夕焼けを捉え、新鮮な感動 を呼び起こすのに成功している。相乗効果の得られるイメージの配合だ。〈岡田俊介〉 | |
| 秋を詰めた空瓶唄う日の団地 | 小林ひろ子 |
| 団地に転がる空瓶が秋を詰めているというのだ。暑い夏が終わり、やっと訪れた 秋が空瓶の中までも入り込んでいて、行く人々の視線を捉えるともなく捉えている 情景なのだろう。ここちよい秋にちがいない。〈岡田俊介〉 | |
| 友の話しは金平糖の白ばかり | 潮田 夕 |
| その友の話は、面白い筈なのだが、こちらの気分がそうさせるのか、色のつかな い話ばかりに聞こえるという情景だ。友というからには長年の付き合いなのだろう が、ある日、鮮やかな赤や緑の色が褪せ、白ばかりになってしまったという、ある 日の思いである。〈岡田俊介〉 | |
| バジル揺らして身のうちは木霊 | 吉田 州花 |
| 芳香がある葉をもつバジルを戯れに揺らして、その揺れに共鳴するかのように身 のうちに木霊が反響するというのだ。秋に敏感になった感覚が、そうさせるのだが 、何にでも感応しやすくなった秋の感覚の冴えを自覚しているのだろう。つれづれ なある日の幻想でもあろうか。〈岡田俊介〉 | |
| 毬藻ゆらゆらと真夜中を沈む | 澤野優美子 |
| 北海道の阿寒湖などにあるという毬藻の真夜中を想像したものだ。毬藻は衆知の とおり、美しい緑色の球形の藻であり、これ自体、幻想的だ。寒い湖の水中にある 毬藻の真夜中の様子は、さぞや静けさの極致であろう。これ以上ない静けさを表現 して、その静けさの中で美しい毬藻がゆらめいているという、新しい句境を示すも のだ。〈岡田俊介〉 | |
| ひとりは花をひとりは斧を銀河に放つ | みとせりつ子 |
| 葡萄の葉裏がえりうらがえり旅路 | 吉見 恵子 |
| 天界を舞いつ曠野は爪の中 | 山内 洋 |
| ソドムの火 塩の柱のごとく立つ | 杉山 夕祈 |
| キリンふと前世の記憶月に啼く | 古俣 麻子 |
| 絵の中のカモメ一羽は病み上がり | 山崎夫美子 |
| 花の密談が洩れ秋は深まり | 林 勝義 |
| 絹の道京と連なる布晒し | 蕪木 奈嫁 |
| いちじくはふしぎの国の通過点 | 望月 幸子 |
| 遺言書下書きをして仕舞風呂 | 山下 華子 |
| まだすこし底に残っている 夕陽 | 中嶋ひろむ |
| ひねもす読書やがてひとつの海に | 佐々木彩乃 |
| 捨てるもの捨てては消えていった渦 | 梅村 暦郎 |
2017.12.23
























