

琳琅 No.176 2022年9月号より①
| 麦秋やホロドモールと言う記憶 | 氈受 彰 |
| 「ホロドモール」はウクライナ語で〝飢餓による殺害〟を意味する恐ろしい言葉だ。ウクライナはソ連の一部だった時(1932~33年)、数百万人にも及ぶ飢餓者を出した。独裁者スターリンの圧政による人為的飢餓が原因だ。掲出句は、実り豊かな初夏を象徴する言葉「麦秋」と対照的な「ホロドモール」の、この落差がウクライナの人々の悲しみや怨みをまざまざと浮かび上がらせている。殊に、「記憶」が内意を高めている。そして今は、プーチンのロシア軍が主権国家であるウクライナを侵略し、破壊し、罪なき人々をも殺戮し続けている。「ホロドモールと言う記憶」がある限り、ウクライナ国民の抵抗は続く。〈細川 不凍〉 | |
| 雲のペガサス手綱をひけば夏来る | 吉見 恵子 |
| 雲の広がる空を見ていると時を忘れそうだ。ゆっくり、素早く様ざまな形に変化しながら、やがて消えてゆく雲。吉見さんは、神話の中のペガサスをとらえた。ペガサスが勇ましく手綱を引いて消え去るのを見ながら、吉見さんは何かスピリチュアルな感覚を覚えたのかも知れない。〈みとせりつ子〉 | |
| 手花火の少女と昏れて絵のなかに | 大谷晋一郎 |
| 夕暮れの時間の推移の中で少女と手花火に興じている。暗闇の花火の点滅がやがて止まり、少女と共に一幅の絵となり、思い出という時間に閉じ込められてゆく。日常の穏やかで愛しい時間を切り取った一句であるが、手花火の沁み入るような煙の匂いや華やぎが伝わってくる。〈吉見 恵子〉 | |
| ひと夏を跳ねる地響き身の響き | 松井 文子 |
| 考えて鬼女考えねば苔むす石 | 谷沢けい子 |
| 虚も実も終えて素足になる河原 | 岩渕比呂子 |
| 冬の絵が疼く一通の封書 | 林 勝義 |
| 人影になって素描のままの道 | 岡田 俊介 |
| 深草の地住みて幾年茶碗子の水 | 越智ひろ子 |
| 列島に人名辞典広げたり | 松井 文子 |
| ひとり居は懐剣ひとつ胸に抱き | 伊藤 礼子 |
| 期せずして天地返しをする戦火 | 野邊冨優葉 |
| 星あまた人より多き恋を恋 | 福田 文音 |
| シナリオはなくても俺は飛んでいる | 古谷 恭一 |
2022.9.10
























